不定期ストーリー 1話

1話

「えっと、僕の名前は・・・杉本たかしといいます。出身高校は地元のー・・・海陽高校です。
 趣味は・・・ありきたりですが・・・読書と音楽鑑賞です。とくにジブリが好きで、
 何度見てもー、えー見飽きないというところがすきです。まぁ・・・・」

とても眠たそうな声で、しかものんびりとした口調で話していたもんだから、
「えーと次の人、お願いします。」
と、クラスの担当教官に自己紹介を中断させられた。

何が起こったのかよく理解していないという顔になったが、自分の席につきながらそう言う顔になったから、共感には見えていないだろう。うん、たぶん。

自分の後ろの席にいる人が、自己紹介を始めだした。
でもなぜか、その声がだんだん遠くなっている気がした。
そして、周りがフェードアウトしていくように、視界が暗くなっていった。


「ブブブブブ、ブブブブブ。」
携帯電話のバイブの音が耳に入ってきた。すると、天井が見えた。
「なんだ、夢だったのか。」
今日は大学でオリエンテーションが専攻別にある。
自分の頭の中でシュミレーションでもしていたのだろうか。しかしそれにしてはなんだか見栄えしない自己紹介だった気がする。
自分の性格上、人前で話すのが得意でないからそうなったのかもしれない。
なにせ知っている顔がまっくない、というのも加わっている。
そう考えながら、体を起こして布団をたたんで部屋の隅に置く。
今日を含めて、これから4年間、いやもっとかもしれないが、生活をする部屋。


自分が今から通うようになる大学は、自分が住んでいる地元にある大学だ。
国立大学、ではある。いちおう。でも偏差値は高くない。
そこの経済学部に学生として身を置いての学生生活が今日からスタートする。
「集合時間は・・・っと」
入学式の時に配布された冊子に目を通しながら、菓子パンを頬張る。
弱冠18歳。料理なんてまともに出来るはずがないし、つくろうと思えばものすごく時間と、お金がかかる。親から離れて一人暮らしをしたい、といったものの生計を立てるための仕送りはわずかしかない。
それを考えると、作るより買ったほうが時間の節約になるし、お腹に優しい。
体には厳しいが。
「9時・・・・・」
今の時刻は、8時。大学が、自分の住んでいるアパートから歩いて30分。
なぜ歩くか?
第一に、電車も通ってないし、バスの路線もない。坂道になっているから、自転車はしんどい。
車という手もあるが、車にご飯をあげると自分が食えなくなる。 
歩くのが嫌いというわけでないから自然と、徒歩通学に落ち着く。


菓子パンを食べて、お茶を飲んで、とゆっくりしているうちに時間はどんどん過ぎていく。
「もう8時20分か、そろそろでないと間に合わなくなるな。」
誰に話しかけるわけでもないが、住んでいるのはひとりなので独り言になる。
寝ぐせが付いていても関係なしとばかりに、玄関に鍵を閉め大学へと向かった。